もうほんの少しでいいから、マトモな人はいなかったのかしら。初顔合わせした後、私の言いたいことはこの一つに尽きた。
 ブリッジクルーは誰も彼も揃って人見知り中だし、機士2人は早速口論中だし、整備士と機関士には近寄りたくもない。なんだろ、この地獄絵図は。
「一流の人間を揃えてみせたのだ。多少のことは目を瞑ってくれたまえ。我輩が認めた腕利きだ。必ずや期待以上の成果を上げてくれるぞ」
 いやいや、武者小路さん。期待なんて、多少はしていたけど。それだけに精神的な大ダメージよ。名家武者小路家の伝手には変人しかいないのかしら。こんなメンバーは、想像の斜め上過ぎるわ。
「ま、私さえいれば他のクルーなんて必要ないんだけどね」
 一番マトモだと思ったオペレーターは小生意気なお嬢様だし。
「占い通りで面倒なことになりましたわ。退屈はしなさそうですけど、少々騒がしいですわ」
 水晶磨いてる砲手なんて信用できないし。
「あの、えっと、その、あの、えーと、その、あの……」
 キョロキョロと挙動不審な操舵手はまだ誰にも話しかけられずにいるし。
「武者小路様。それで私好みのマッソーなメンズはどちらかしら?」
 筋肉隆々で背の高い機関士の男は何故かメイド服を着て、はたまた何故か男漁りしてるし。
「入る時に見えた機体は誰の? 一回バラしてクルミ流のスーパーな機体に造り替えない?」
 スパナ振り回す整備長はあろうことか私の設計した機体を解体しようとしてるし。
「オレのヒーロー魂を見抜けないお前が天才な訳ないだろうが!」
「俺様の天才ぶりが分からない貴様がヒーロー気取りとは笑わせてくれる」
 パイロット2人は意味もゴールも分からない言い争いしてるし。
 まぁ、それでも兄さんがいれば……。
「い、いくら上目遣いしたって、この状況をどうにかできる器量は僕にないよ」
 何ともならないらしい。正直初手から詰んだ気分。

 でも、ま、仕方ない。こんな連中だけど、目的も相手も不明確なのに集まってくれた稀有な人たちだ。それにふざけたクルーのほうがいいのかもしれない。
 復讐に付き合ってもらうんだ。バカな奴らの方が気兼ねがない。